最初に4枚の台帳を作り、危険な田を先に決める
農林水産省が2026年3月に公表した「令和7年地球温暖化影響調査レポート(速報)」では、都道府県からの報告を集計した結果、出穂期以降の高温による白未熟粒の影響が見られた作付面積割合は、全国で3割から4割とされた。効果があった対策には高温耐性品種の導入、肥培管理、水管理が挙げられている。ただし、今季の栽培途中で品種や作期は変えられない。直ちにできるのは、高温に遭遇する時期が異なる田を分け、作業の優先順位を更新することだ。
出穂台帳には品種、移植日、予想出穂日、確認した実出穂日を記す。稲体台帳には葉色、草丈、倒伏の懸念、幼穂や穂の状態を地域指定の方法で記録する。配水台帳には水口・水尻、漏水、田面の乾き、次に取水できる日時、地域の通水終了予定を入れる。収穫台帳には籾の成熟状況、予定順、コンバイン、運搬、乾燥機、委託先の空き状況を記す。台帳を別々に保管せず、ほ場名を共通キーにして一列で見比べれば、「出穂直後に高温が重なり、次回取水も遅い田」などを抽出できる。
予報は作業日を固定するためでなく、再点検日を置くために使う
気象庁の2週間気温予報は毎日更新され、2週目は8日先から12日先を中心とする5日間平均の見通しとして示される。一方、高温に関する早期天候情報は、6日先から14日先の期間に、その地域・時期として著しい高温となる可能性が高まった場合に発表される。先の予報ほど不確実性があるため、2週間予報を見た日に施肥日や入水日を確定するのではなく、「次に幼穂・葉色・用水を確認する日」を台帳へ追加する使い方が安全である。
実務では、予想出穂日の約2週間前から出穂台帳と気象情報を同じ日に更新し、週間予報の範囲に入ったら実測を増やす。予想日が同じでも、移植時期、品種、生育、ほ場内のばらつきによって実際の出穂はずれる。地区の代表田だけを見て全田の作業を決めず、少なくとも品種、移植時期、土壌条件が異なる区画を分けて確認したい。予報が変わった場合は古い判断を残したまま新しい判断と日付を追記すると、担当者間で変更理由を共有できる。
追肥と水は全国共通値ではなく、地域基準との照合で決める
農林水産省の農業技術の基本指針は、高温時にも葉色を見た生育診断を行い、適期・適量の穂肥を施すこと、出穂後の通水と収穫前の早期落水防止を徹底することを示している。基肥一発肥料を使用した田でも、生育・栄養診断に基づく追肥を検討するとしている。ただし、葉色が薄いという理由だけで窒素を一律に追加してはいけない。品種、倒伏リスク、地力、既施肥量、幼穂の進み方をそろえ、都道府県や普及指導センターが示す品種別の時期・量と照合する。
農研機構の高温登熟障害対策・追肥診断APIも、場所、品種、移植日、穂肥時の葉色を入力条件としており、2026年6月29日更新時点の対応品種はコシヒカリとヒノヒカリに限定される。これは、追肥判断に複数のほ場情報と品種別モデルが必要であることを示す一例であり、他品種へ結果を流用する根拠にはならない。新潟県巻農業普及指導センターの2026年7月2日資料にも品種別のSPAD値、時期、施肥量、出穂後の水管理期間が掲載されているが、巻地域の作型と土壌を前提とした基準である。他地域では地元の最新資料を優先する。
配水台帳では、水深だけでなく田面が乾いていないか、水口から遠い部分まで水が届くか、畦畔や水尻から漏れていないかを確認する。高温だからと各戸が同時に取水すれば、末端の田へ届かない場合がある。渇水が見込まれるときは、農林水産省の指針にある番水や用排水の反復利用も含め、土地改良区や水利組合の運用を優先する。掛け流しの可否を個別判断せず、まず漏水を止め、次回取水まで土壌を乾かさない必要がある田を共有する。
出穂日を収穫能力へ引き継ぎ、刈り遅れを防ぐ
農林水産省は、高温によって登熟期間が短縮し、収穫適期が通常より早まる可能性があるため、出穂期以降の積算気温と籾の状態を見て、品種・地帯別に判定するよう求めている。平年の刈取日や委託日だけで固定せず、出穂台帳の実績日を収穫台帳へ引き継ぐ。積算気温の目安は地域・品種で異なるため、地元の技術情報と籾の黄化状況などを併用し、単一の数字だけで開始日を決めない。
農研機構の収穫適期診断APIでは、ほ場の位置、品種、出穂日、出穂期以降の気象、登熟後期の葉色を使い、収穫適期や胴割れ回避のための収穫晩限を予測する。この入力項目からも、出穂日の記録は穂肥や水管理だけでなく収穫判断までつながることが分かる。現場では、コンバインの整備、乾燥機の清掃と試運転、籾運搬容器、張込み可能量、委託先の日程を早めに照合する。成熟が前進しても乾燥能力が追い付かなければ、刈った籾を適切に処理できないため、刈取順と乾燥順は一体で組む。
今季の記録は翌年の品種構成にも使える。同じ熟期へ作付けが集中すると、出穂後の高温だけでなく、収穫・乾燥作業も同時期へ集中する。農林水産省は高温耐性品種の導入と熟期の異なる品種による分散を対策に挙げるが、導入候補は地域適応性、用途、種子供給、販売先の条件まで確認して決める必要がある。今季終了後は、白未熟粒などの品質結果を、出穂日、葉色、水管理、刈取日、乾燥記録へひも付け、品種変更や移植日の分散を検討する資料にする。
高温登熟期のほ場優先順位を決める判断表
| 台帳で見つかった状態 | 優先度 | その日に確認すること | 実行判断 |
|---|---|---|---|
| 出穂前で、葉色低下または生育差がある | 高 | 幼穂、葉色、草丈、倒伏リスク、既施肥量 | 地元の品種別基準と照合し、追肥の要否・時期を決める |
| 出穂直後で高温予報と重なり、次回取水が遅い | 高 | 田面の湿り、漏水、次回通水日時、地域の配水規則 | 漏水を補修し、水利組織と入水順を調整する |
| 出穂日は早いが収穫・乾燥日程が平年どおり | 高 | 積算気温、籾の成熟、乾燥機能力、委託先の空き | 点検と予約を前倒しし、刈取・乾燥順を同時に更新する |
| 葉色や水分に問題がなく、高温との重なりも小さい | 中 | 予報更新、田面状態、生育の変化 | 作業を固定せず、次回点検日を台帳に設定する |
| 複数ほ場が同時に高優先度となった | 要調整 | 出穂段階、取水制約、漏水、成熟度、処理能力 | 全田一律作業を避け、影響を受ける時期と資源制約で順番を決める |
HOW TO
手順
- 1
4枚の台帳を作り危険な田を先に決める
出穂台帳(品種・移植日・予想出穂日・実出穂日)、稲体台帳(葉色・草丈・倒伏リスク・幼穂)、配水台帳(水口・水尻・漏水・次回取水日)、収穫台帳(籾の成熟・乾燥機能力)をほ場名で結び、高温と出穂が重なる田を抽出します。
- 2
予報は再点検日を置くために使う
2週間気温予報や早期天候情報を見た日に作業日を確定せず、「次に幼穂・葉色・用水を確認する日」を台帳へ追加します。
- 3
追肥と水は地域基準と照合する
葉色が薄いという理由だけで窒素を一律追加せず、品種、倒伏リスク、地力、既施肥量、幼穂の進み方を地域の品種別基準と照合します。
- 4
出穂日を収穫能力へ引き継ぐ
出穂台帳の実績日を収穫台帳へ引き継ぎ、積算気温や籾の成熟状況とあわせてコンバイン、乾燥機、委託先の日程を照合し、刈取順と乾燥順を一体で組みます。